夜明けに立つ 理蝶
太陽のアウラが
水平線を揺らし始めるまで
あと数分
冷気は硬度を上げ
体の微細な隙間に詰まり
関節を軋ませる
俺達はダウンのポケットに手を突っ込んで
交互に白い息を吐いている
言葉もなくじっと夜明けを待つ
新しい炎が水平線を越え
空を底から燃やしてゆくのを
俺達は見に来たのだ
孤独な海鳥は
大きな団旗が振られるように
高く弧を描いて飛んでいる
海面が心なしかざわめいている
小さな頭が出ては
俺達を覗いて消えてゆき
水面の下でひそひそと噂する
風は止み音が消える
深く息を吸う
時計を見る
予報の時間だ
水平線の極点から
光の切先が飛んでくる
思わず目を細める
大きな力が新しい炎を押し上げて
強い光が一斉に放射される
海は煌めいてそれに応える
青い絨毯の上に
光の礫が無数に散らばっている
空と海の境から
赤く赤く色づき始める
細かな血管が走るように
龍が火を吹くように
藍の空が赤く染められてゆく
火球はとうとう浮かび上がり
俺達とまっすぐ向かっていた
眠れる世界を叩き起こし
万象を動かす強い力がそこにはあった
俺達はその力を一心に浴びていた
萎れていた内側の何かが
再び熱を帯び始めていた
止まっていた風が動き出し
二人の頬を撫でていった
生きてゆける
何故か そう思った
そこに言葉はなかった
互いの瞳を見て
その思いは確かになった
瞳の中には新しい炎が
いつまでも燃えていた