眠れない夜について語ること 荒木章太郎
真夜中に目を覚ますと
決まって最終電車の音が風に吹かれて打ち寄せてくるのだ
頭の中の遥か遠くの片隅でラッパの音が鳴っているのだ
かの軍隊行進曲だ
あの駅前のパチンコ屋から鳴り響く威勢の良い高揚感
死の恐怖を無意識の井戸に沈める
貧しい方へと
若い方へと
弱い方へと
もうへとへとになってしまった
原始的な欲望は雪だるま式の戦車となる
一夜漬けの投資家達は
魅力的な課金制度で
疲れを真っ赤な火の玉に解釈して
雪を溶かして高感度な欲望へといざなう
肉体は猥褻な雑踏を避け朝の公園へと逃れたが
街中の老廃物がアバターとなって集まり
同じ方向を向いてラジオ体操をしているではないか
ならば駅前に行くしかないか
駅前はカンカンとうるさい匂いを放ち
区役所庁舎ビル建設工事が始まっていた
(今何時だと思っているのか)
コンクリートで固められた超自我が
東口と西口の間で佇む古井戸に圧力をかけていた
カンカンと遮断機の目が日の丸の旗
"右・右・左・右・右・右・左・右
全体止まれ ・前へならえ・やすめ
そして考えるな! "
(支配者も陰謀論者も特定の個人ではない)
語れない夢の中では
いつも最終電車に間に合わない
乗れなくもよい
感じて泣いて
吐き出して
考えて良い
どうか戦争をしない
子供達に育ててください
お願いです車掌さん
見上げると彼には頭がなかった
(思考すら音声案内なのか)
夢すらも支配して伏線を回収し
世界中の皆様に承認されたいと思っている
現実には戦争が起こっているというのに
自己愛だけが脳天気に翼擦って歯軋りして歌をうたう
1・2・3・4・1・2・3・4・1・2・3・4
(シアワセハ・アルイテコナイ・ダカラアルイテユクノダネ)
昭和歌謡がサンプリングされループする
汗かきべそかき歩こうよ
前を向いて歩こうよ
体を起こしカタカタと背中まるめて検索を駆使する
鬱蒼とした無力感に感染せぬよう最新の注意を払う
考えて・考えろ・考えろ・考えろ・考えろ・考えろ
もう臍の緒はとうの昔
祖先が大気圏を飛び出した時に断ち切っているのだ
絆という鎖の重さに頼るな
最初から無重力なのだから
空っぽな自己の軽さを恐れるな
考えるだけではだめだ行動しろ
決してたどり着けないと悟りながら
現実に触れる旅に出るのだ
他者と対話するのだ
決して一つにはまとまらないと悟りながら
統合を目指すのだ
どうせ最後は自我は溶けて
黒い闇へと混ざるのだから
なにも始発電車に乗る必要はないが