北の庭には黒猫が歌う 紫陽花
陽の射さぬ北の庭を好むのは
孤独な私とクリスマスローズだけ
世のすべてを呪いながら
この花は私にやさしく語りかける
幸せになれると思った
あなたを神だと信じていた時は
今宵もそんな声が聞こえた気がした
そんな時 私は庭を想う
月の無い闇夜は本当に寂しい
でもどこか安心感もあり
私は眠れぬ夜に庭を眺める
そこにはただクリスマスローズだけが
白く浮き上がるように咲いている
そしてその花のもとには
いつも痩せた黒猫がいた
痩せた黒猫は白い花びらをちぎる
限りなく透明な雫が流れ
その滴りに唇をつけてすする
黒猫は歌い始める 一晩中
時折こちらを見ながら
低く低く 時にかすれた声で
ときに白い花びらをちぎり
滴りで喉を濡らす
私はそれをいつもただ見ている
やがて月が昇ってくると
クリスマスローズの白さは闇に溶け
黒猫のいた場所には
ただ黒い土が盛り上がっている