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スレッドNo.3655

わたし  樺里ゆう

二十二歳の夏だった

出かける直前に話しかけられ
ぞんざいな言葉遣いで返した姉を
父が怒鳴りつけた

わたしはその怒鳴り声を
洗面所で聞いていた
髪をとかしていた手は硬直し
両眼から反射的に涙が湧き上がる

わたしは忍び足で自分の部屋に逃げ込み
ベッドの上でしばらく泣き続けた

幼い頃からそう
父が誰かに怒鳴っている声を聞くと
自分が怒鳴られたわけでもないのに
勝手に涙が出てきて止まらないのだ
だけど二十二にもなってまだ泣くなんて
自分でも驚いてしまう

——インナーチャイルド
昼間の星のように存在する
その時々のわたし

父を大切に思い
父に怯え
父を軽蔑し
父に共感するわたし
父の言うことに忠実であろうとした わたし
父と己の考えが違っていてもいいと気付いた わたし

これらの思いを何一つ
父に言っていない わたし
これからも言うつもりはない わたし——

ふとした拍子に掘り起こされる
無数のわたし

それをみな連れて
わたしは今日も生きている

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