堀端 理蝶
堀は そよ風に触れ
槌目のように細かにされて
あくびの空を 朧に映し出す
鯉は気まぐれにうねり
風がほどこした意匠を崩してゆく
少しすれば そよ風がまた
堀を仕上げに帰ってくる
水辺の立ち木に カワセミが一羽
空を煮詰めた背と ひだまりの腹を抱いて
水面をじっと睨む
鉄砲もなしに 打ち出された青い弾丸は
やごを啄み 風に逆らい消えていった
のどかなようで 厳かな彼の昼食
ここには 僕のほかに
誰もいない 誰もいないよ
誰のためでもない
ただここにある景色
街が入り組んでゆく その陰で
ひたむきな命が重なっただけ
せめて邪魔しないように
僕は静かにいるよ
像にでもなったつもりで
僕は静かにいるよ