悪童の冒険 上田一眞
小学一年生だった
幼馴染みのようちゃんと
兄貴のはるちゃんが
面白いことをしようと言う
さっそく浜で
悪童連五人が額を鳩(あつ)めた
僕は一番歳下のチビだ
リヤカーに
竹竿で作った簡易な舵と
ブレーキを取り付け
木枠で囲ったそいつに五人で乗り
長い坂道を下ろう
場所は国道ニ号線の椿垰(つばきだお*)
二キロ半ばかり続くダラダラ坂だ
ボスのはるちゃんが
事務所のライトバンでリヤカーを運ばせた
市境の戸田山(へたやま**)まで行き
そこから垰の西側を
いっきに下った
そこそこスピードも出て
スリル満点 爽快だった
翌日 登校すると校長室に呼ばれた
校長先生から
お小言を頂戴したが
なぜ叱られたのか分からない
見ると
一緒に坂下りをした悪童が
肩を並べて一列に立たされていた
はい 一眞くんもそこに立ってなさい
校長先生に促される
皆がジロジロ見て行くから気恥ずかしい
鼻水は出るし嫌になった
母が学校に呼び出され
平身低頭
米搗き飛蝗のように
ぺこぺこ頭を下げて謝まっていた
駐在さん(警察)から
坂下りを厳しく咎められたようだ
僕は不思議だった
あんなに楽しくて爽快
人に迷惑をかけたわけじゃあるまいに
大人はなぜ怒って止めるんだろう
危険な遊びだ!
と言われた
でも
車なんて一台も走っちゃあいないんだ(***)
ようちゃんとはるちゃん兄弟は
日本名だけど
半島の人
いつも意地悪されていた
この地は陸の孤島で封建色が強く
もっぱら保守的で頑迷な土地柄だ
今回も嫌がらせに
誰かが駐在さんに讒言したに違いない
はるちゃんの悔しそうな顔
チビはチビなりにこの状況を把握して
こころが痛んだ
校長先生から
しばらく学校に来ないでよい
家で謹慎するように
と言われた
小一にして登校禁止処分をくらったわけだ
でも五人はいつものように浜に集合
何事もなかったかのごとく
砂遊びに興じた
悪童連に「敗北」の文字はない
母は呆れ顔だ
不思議なことに 厳父は
母から話しを聞いても
叱ることなく
只管 うなずいていた
僕は悪さの常習犯
いつも追いかけられて
灸(やいと)をすえられていたから
父の態度が
訝しくてしかたなかった
こっそり顔を見ると
父は懐かしそうな表情をしていた
微笑ってさえもいる
何も言わなかったが どうも
僕と同じような体験をしていたように思う
雪の日 坂道で
竹の橇遊びを教えてくれたのも父だ
幼な子の男の冒険心を
それなりに
評価していたのだろう
*椿垰 地元では低い峠を垰(たお)と呼ぶ
椿垰は防府と徳山(現周南)の市境にある
低い峠
**戸田山(へたやま) 防府市富海にある地
区名
***昭和三十五年当時 国道二号線は開通
してまだ間がなく交通量は著しく少なか
った