約束の春 紫陽花
今年の桜は遅い
お客さんが残念そうだ
聞いてみると
病気で家に閉じこもりがちの
お母さんが 桜が好きで
まだかまだかと
お花見に家族で行く日を
待っているらしい
私も例によらず
お花見が好きな人だ
ただ桜に限らない
ムスカリだとかたんぽぽだとか
れんげそんな色とりどりを
眺めながらの出勤を
春は楽しんでいる
地面の低いところから
青や黄色やピンクがふわふわ揺れて
春もふわふわやってくる
そうしてるうちに
あのごつごつした黒い幹に
桜の花の白っぽいピンクが
頭上いっぱいに広がる
あっという間に
これは約束なのだろう
春には 春のこの道には
この桜の木があって
私はここにいるという存在感
足元の小さい春の子たちとは
また違う存在感を持って
桜の木は花を咲かせる
だから私も
お客さんのお母さんも
今年も桜に会いにいかなければならない
春の約束だから