螺旋の君 晶子
天地開闢より遥か遠く
君が始めた螺旋の道を
僕たちの喜び悲しみも
僕たちの命も刹那として
君が君になるために歩いて行くのを
螺旋の中の僕たちが
見つめている
紺色のスーツを着た女性が
カフェから背筋を伸ばして駅に向かって行った
バッグには赤地に白の十字の札が揺れてた
彼女の喜び悲しみを僕は知らない
天地が破れて
一つの種族が滅ぶ時
最後に食べた温かいご飯の記憶と
歴史と呼ばれる日々を抱えて
消えていく一人を思う
全ては君の中で
君を孵化させるための準備をしている
そして僕らは君の目
生の嘆きと滅びの静けさの脈動を君は求めたの
誰かの嘆きに呼応して
生まれたこの詩のように
僕らの嘆きに呼応して
君は自分を手に入れる
僕らが魚だった頃を忘れたように
君も僕らを覚えていない
でも確かに君の螺旋の中に
僕らはいて
螺旋の階層を透過して君を見ている
ないものの世界からあるものの世界に転化した意思が
合わないネジを捻じ込まれるネジ穴のように
今も僕らを潰し苦しめる
そしてその熱量が
僕らを生かす
螺旋の君
今朝も太陽が町並みを照らし始めたよ
沢山なのにたった一つの君
光と陰がつくられていくよ
僕らの命を巻き込んでつくられる君
朝食に僕が食べた蜂蜜パンは美味しかったかい
君は僕らだ