アクアリウムと平和 理蝶
暗がりの水槽で
重力に甘やかされた魚たちは
あちらこちらの照明によって
はなやかに仕立てられる
7つの海からきた彼らが
縦横に行き交う様は
さながら この世界の交差点のようだ
海はいくつかに章分けされて 物語を語る
瞬間の挿し絵であり本文が
ガラスの向こうできらめいており
僕たちは時を忘れて
うつくしい海の1ページにみとれる
13時半からはショーがあって
屋外アリーナを人が囲む
割れたマイクと陽気な音楽で
和やかにショーは進んでゆく
イルカが跳ねて しぶきが光る
この国のどこかで 同じように
イルカが跳ねて しぶきに色めく
また明日も 同じように
イルカが跳ねて しぶきに沸いて
疑いなく 明日もイルカは跳ねるだろう
そこに格別のありがたみはない
平和とはひとつ
この心の凪のことなのかもしれない と
ふと思う
凪いだ心すら平和のかけら
そう思えば
こどもの笑顔や ゆるやかな午後が
いっそう かがやいて見える
14時のかがやきが暖かくて
なんだか目が潤む
大きなあくびでごまかす
こんな話 誰にしよう
イルカの背びれを 夢中で追っている
となりの君には届かないし
白い鳩が
落ちたボーロをつついている
子どもがきゃっきゃとおどかして
鳩は快晴の空へと飛び立った
その後ろで
子どもの親が優しく微笑んでいた
なんだか出来すぎだよ と思ったが
それもいいな と今日は思えた