優しい時間 akko
靴ひもを結わえる夫の背中にいつものように
「行ってらっしゃい」
何ごともなかった日の当たり前に返ってきた
「行ってきます」
落ち葉を掃き終えた我が家の前を女の子が通る
ピカピカの大き過ぎるランドセルを背負い
緩い勾配の道を小さな靴で踏みしめながら
籠りきりの私の口から思いがけず声が出る
おずおずと嗄れ声で
「行ってらっしゃい」
女の子ははたと立ち止まり
私の目を真っすぐ見て
私に言い聞かせるかのような口調で
「行 っ て き ま す」
見つめ合った二人の間に一瞬優しい時間が流れた
箒と塵取りを手に遠ざかる女の子を見続ける
次の角を曲がるまで
スカートの裾が隠れるまで
忘れそうになっていた
行ってらっしゃい
行ってきます
・・・・・
読む方にとって何を言おうとしているのか分からないかも
しれません。タイトルの脇に・・亡き夫を偲んで・・などと
入れたほうがいいのかと迷いました。