あの日のかわいそうなささくれ 紫陽花
大丈夫と言ってくれた君の言葉に
ついに泣きだした私の今日のささくれよ
この静かな波の広がる砂浜に
少し休んでおいきなさい
かわいそうに かわいそうに
そう繰り返しながら
波はそうっと撫でていくのです
ザザー ザザー ザザー ザザー
波は寄せては返し
私はすっかり安心して
浅い波間に潜ったり浮いたり
綺麗に洗われていくのです
カサカサに乾いた汚れも
鱗みたいな曇りも
波は ザザー ザザー ザザー ザザーと
優しくリズムよく
私を上にしたり下にしたりしては
転がすのです
はじめは少し強いかなと思った波にも
もまれるうちには慣れてきて
私はお陽様のきらきらを受けて
きらめいたり砂のさらさらを感じて
笑ったりすることができるようになります
そうしているうちに
おや少し水が冷えてきたようです
お陽様が明日を迎えに行く
準備を始めています
私もそろそろ海からあがりましょう
そしてすっかり角が取れた
この体を抱いて
お月様に濡れた体を乾かしましょう
もしあなたが
月夜の砂浜に白く丸く光る小さな
何かを見つけたなら
それはきっと私が落とした
あの日のかわいそうな
かわいそうなささくれでしょう