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スレッドNo.3759

お大事に  温泉郷

重力は実は存在しない

昼間雑談で聞いた話は本当だろうかとふと思った
重力がなければ物は落ちないはずだが 
そんな軽い話ではないのだろう

明日も早い
カフカの「審判」を途中まで読んで
布団に入り 部屋を暗くした

いつの間にか私は果樹園にいた
果樹園の周りには畑が広がっていた

近くの樹から熟したリンゴがひとつ
枝をそっと離れ
スローモーションのように落ち始めた
ああ やっぱり 重力はあったのだなあ
と思って見ていると
リンゴは着地前にこちらを見て
  ほら このとおり 重力はあるのよ
  ほら このとおり 重力はあるのよ
と微笑んで草の中に音もなく落ちた
私はほっとした やっぱり 重力はあったのだ

急に風が空に向かって吹いた
果樹園の周りの静まり返っていた畑がざわめき
スイカが 一斉に舞い上がった
リンゴも枝をちぎって 一斉に浮き上がった
スイカもリンゴも 勝ち誇ったように
高みからゆらゆら私を見下ろした

草地に落ちたさっきのリンゴも
  ごめんね ほんとうは 重力はないのよ
  ごめんね ほんとうは 重力はないのよ
といいながら仲間の後を追って
申し訳なさそうにゆっくりと昇って行った

私は驚きと悔しさと羨ましさで 思わず 
  重力がなんだ 俺だって
と叫んで布団をはねのけ
空に向かって思いっきり跳んだ
が 伸ばした手はスイカにもリンゴにも届かず
背中から落ちた

裂くような稲妻が仙骨から脳天を貫き
白銀色のギザギザがまぶたの裏を突き刺した
スイカとリンゴが一斉に落ちてきた

ああ また やってしまった
私はうめいた
重力の証明のために 腰を犠牲にする必要まではなかった

激痛に耐えながら かろうじて電気をつけた
  こいつだったのか
ヨーゼフKが朝食用に取っておいたリンゴがひとつ
枕もとに転がっていた

編集・削除(編集済: 2024年04月04日 10:30)

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