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スレッドNo.3775

喪失と成熟の節理  上田一眞

母が亡くなり
父が後添いを貰ったとき
僕は嫌々ながら〈おとな〉になった

人は少しでも
自分たちと違う匂いがする者がいると
たとえ身内でも
排除の論理が働くようだ

継母やその親族たちから
僕は鬼っ子扱いだった
まあそこらは容易く予想もついたし
覚悟もした

だが 意外なことに
実母の親族たちからも同じことをされた
父が再婚してから後
一人の伯父が
僕に対してよそよそしい態度をとり始めた

守ってくれるはずの人たちが
あてにならない
攻撃さえして来る
疎外感を感じた

古い因習と封建的価値観に縛られた
田舎のことだ
村八分など経験済みではないか
と思いつつも 
身内の離反に寂しさが募った

これも人の持つ
保守性の表れなのだろう

僕はそのとき決意した
妹だけは嫌な目に会わさないようにしよう
この波浪を遮断して
彼女を守ろうと…

後年
妹と思い出話しをすると
なんと彼女も被害を被っていた

妹は父方の伯母から
「継母に育てられた娘」と位置づけられて
非ぬ扱いを受けていた
健気にも彼女はそれをひた隠し
自分の中で処理していたのだ

母の喪失が僕ら兄妹を成熟させた
幼い妹は賢く美しい女に成長した
しかし
なんという逆説だ
なんという皮肉だ

僕らだって母を失うくらいなら
〈おとな〉になどならなくてよかった
〈こども〉のままでよかった

 「喪失と成熟」の節理

〈おとな〉になるとは
成熟するとは
生きとし生けるものにとって
哀しいことがらなのだと思う

これが人のみならず
万物に通ずる
節理なら
やむを得ないが 受け入れよう

傷心のこころを癒やそうと
夜空を見上げ
星々の煌めきを見たとき
直感的にそう思った

そして
遠い遠い遥かに遠いむかし
ビッグバンで星々が生まれたとき
宇宙も
なにかを失ったのだろうな
とも思った

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