海亀 妻咲邦香
また逃げたよと笑ってみせた
麦わら帽子に口笛のシャワー
言葉も無しに杯を満たして
無理矢理に握手を迫る
いい子だったよと口にしかけて
それ以上は記憶になくて
それじゃ当たり前だと
偉そうに先輩ぶられても
半分過ぎた夏の、もうあと半分
誰にも会いたくないのに
扉は開けたまま
砂の上、ストローの影が揺れて
蜃気楼が唇寄せる
選んだ砂浜が間違いではなかったと
眩しい夢など見なくて済むなら
心なしかこけた頬、鏡に映して
早くも癖になりそうな
蜜に隠した毒の苦みが
打ち寄せて
また帰っていく
海を選んだ灼けた肌
龍宮城を素通りして
おかげで二日酔い、酷いお目覚めさ
空のベッドに光が差して
優しさ欠片も無い朝に
いい子だったねと今更
次は誰が拾うんだろうねと
乾いたバゲット齧りながら