最期 紫陽花
少し反応が悪くなっていたスマホに
いきなり砂嵐が吹き荒れた
砂嵐は砂嵐らしくつぶつぶの砂を
画面に部屋中に撒き散らしている
そのままその砂嵐は私の
目覚ましの音楽を単調に流しはじめた
ああ誰かが私を呼んでいる
砂嵐の奥から
私を起こすことを仕事にしていた
目覚ましが私を優しく呼んでいる
私の事を覚えていると言いたいのだろうか
義父は 危篤状態になり私を忘れてしまったというのに
先週のこと主治医から
血圧が50を下回ったので
来てくださいと呼ばれ病室に通された
私は義父に呼びかけた
私のこと分かる?
義父は首を横に微かに振る
春休みなので今日は子供も一緒だ
子供の顔を見せながら分かる?
と同じ問いをする
すると義父は
確かに聞こえるか聞こえないかの音で
はあっと言ったのだ
血の繋がりとはこんなものなのだろうか
私には義父の血は入っていない
顔つきやら仕草やら似てないということだ 1ミリも義父ではない
ただ孫はやはりどこか義父なのだろう
私に向けては出ない音を声を
義父は孫の顔を見ながら はあっと出す
お前のことが分かる
そんなメッセージだろう
体重38kgすっかり痩せ細り
見る影もない体から 確かに微かに
意志を持って出た音
そんな事を思い出しながら
私は目の前にある砂嵐の画面から
鳴り続ける私に向けた
目覚ましの音を受け止めている
大丈夫 私はあなたの最期を見届ける