春のうた 理蝶
空も飛べそうな気がするけど
あばらわなわな震える季節、春
いくつになっても慣れない
ふらつく陽気が
居心地わるいから愛しい、春
桜とビラ舞う大学通り
服に着られた青年はおどおどと
期待と不安にぷくりと膨れた
水まんじゅうみたいな瞳揺らして、春
だれも気に留めないあざを
大げさに隠すから空回って、春
気疲れしてよろよろと歩く彼
街を縫う引越しトラックに
轢かれそうになって
はっと吸い込んだその空気が、春
肺から入った春が 動脈に溶けてゆく
血液がとんとんと こめかみを叩く度
毛穴から昇るかぐわしさに気づくだろう
指の先まで春が行き届く瞬間
その一瞬を忘れないで
冬のしんがりが身体から去って
君はようやく 真に春を迎えるんだ
その時はじめて 春はやわらかく君に立ちはだかるだろう
四月のゆらめきに
自分を丸ごと揺すぶられる錯覚が
夜毎やってきても
変わらないこと 変われないこと
自分に変えられる本当にわずかなこと
それを見失わないこと
怒った肩をそっと下ろして深く息をしよう
そうすれば こめかみから花が香ってくる
そう、その調子
なあ青年、
君は今 青くて眩しくてかぐわしくて…
まるで春そのものなんだ
だからこそ 今君の感じる景色は
こんなにも鮮やかなんだよ
時に痛みすら覚える程に
なあ青年、その痛みを愛せよ
大丈夫さ 君が今からゆく先は
君の人生で一番きれいな、春