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スレッドNo.3823

みいちゃんと木苺  上田一眞

妹とふたり
浜沿いにある丘まで砂利道を歩く
お目当ては 木苺
実の割に大きめのつぶつぶがある
天然のラズベリーだ

 お兄ちゃんこれ食べられる?

  あぁ みいちゃん
  それは駄目
  よぉ〜く見てごらん
  つぶつぶが小さいから 蛇苺
  食べたらお腹痛くなるよ

海岸段丘の端 灌木の中
白い花を咲かせた後で紅い実をつける
珠玉の木苺

野薔薇の仲間だけあって
棘々がいっぱい
夢中になって
集める兄妹の両手は傷だらけだ

渚へ行って潮の香 漂うなか
木苺を海水で洗う
みぎわの小波に
引っ掻き傷がちょっぴり滲みた

 お兄ちゃんいっぱい採れたね

妹は籠のなかを覗き込み
小さな掌で木苺を掬った

顔中を口にして
頬張った
口の中を真っ赤に染めて
頬張った
可愛い笑顔いっぱいに
頬張った

  みいちゃんよかったな
  じゃけど
  食べ過ぎると口の中が痛うなるよ
  それに潮水で洗ろうたから辛いじゃろ*
  いっぱいあるから
  お母ちゃんへのお土産にしよっ

帰り道
しおからとんぼが音もなく
ツイと飛んで来て
妹の麦わら帽子にとまり 翅を休める
そして 僅かに首をかしげた

兄が指でくるくる輪を描いて
とんぼの目を廻そうとする
妹もいっしょに目をぐるぐる…
笑い声で
一瞬 時が弾けた

もうすぐ
彼女の好きな夏の到来だ

 ぴぃ〜ひょろろ

浜風に乗って
高い空にとんびが啼いた
見上げると空に広がる無限の蒼
天壌無窮の光が
目いっぱいに飛び込んで来た

七月生まれの妹に
六度目の夏が来る





*山口弁では「辛い」も「塩っぱい」も
「辛い」と言う

編集・削除(編集済: 2024年08月24日 18:25)

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