おぼろづきよ 秋さやか
おぼろづきよに口笛ふけば
雲はほろほろ解けていって
あなたの寝顔を
象ってゆく
歌詞を忘れた子守唄
あなたの夢に届くだろうか
木々はざわめきながら
根元に溜まる月光を吸いあげている
ゆらめく夜の
出口となって
寄るべないものたちを眠らせる
枝先で開かれた羽
その優しい羽ばたきから
こぼれ落ちたわたしは
ただひたすらに
螺旋階段を降りてゆく
乾いた足首が軋むたび
昏い体内で息づく星々
張り巡らされた静脈の分かれ目で
蒼白く光る
祈る言葉の代わりに
吐ききった息を繋いだ風に
靡くカーテンの
緩やかな襞は
月明かりを透かしながら
夢とうつつの波打ち際へと溶けてゆく
変わらない景色
変わらない夜空
けれどたしかに終わってゆく
冷たく滑らかな手すりの
始まりで解かれた
あなたのか細い指先
底に沈んだ夕日を求め
澄んだ足音だけが続いてゆく
明かるすぎず暗すぎない
春の夜を