お大事に 温泉郷
くしゃみ なのか咳なのか
ぎりぎり判別できないような
不思議な音
長いまっすぐな
地下鉄の連絡通路の向こうから
マスクをした男性が
その音を立てながら
朝の通勤客に混ざって歩いてくる
男性とすれ違うまでに
もういちど 聴きたい
聴いて判別したい
どちらなのか
すれ違う直前の
5,6歩前
男性はその音を立てた
今度は判別できた
間違いない くしゃみだ
ただ 喉も傷めているらしい
咳のような喉のガラっとした痛そうな音が
40%ほど混じっている
ああ 聞き覚えがある音
その男性は
同じ方向に歩いていく人や
すれ違う人に気を使って
くしゃみの音をなるべく出さないように
抑えようとしている
そのために
咳とも くしゃみともつかない
ひしゃげたような
不思議な音を立てていたのだった
風邪と花粉の合併症は
かなり キツい
症状が悪化すると長引くので
注意しなければならない
喉 大切にしたほうがいいですよ
のど飴を舐めるといいですよ
できれば休んだ方がいいですよ
話しかける時間も勇気もない朝
すれ違った同志の背中に
心の中でせめてもの
お見舞いの言葉を贈る
何の役にも立たない
あの一言を
かつて
すれ違った誰かから
確かにもらった
あの一言を