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スレッドNo.3930

影法師の歩く道  人と庸

あまねく照らす太陽の下
ひとつの影法師が歩いていく

このせまい町を
毎日 毎日
あらゆる通りを
あらゆる横道を
縫うようにして

今日も歩く
明日も歩く
次の日も
また次の日も

ただ歩く
ただただ歩く
影法師が
歩いていく

少し足をひきながら
まるですべての道を
自分の足跡で埋めつくそうとするかのように

影法師は
かんがえる
今日はこの角を
曲がろうか
それともまっすぐ
進もうか

角を曲がった先に
何があるのか
まっすぐ行けば
どこに辿り着くのか
影法師は
ときどき思案する

 あるときは
 古い民家の間を血管のように這う
 細い道を気ままに進む
 その先にひっそりとたたずむ寺の境内には
 一面に敷き詰められた
 桜の花びら

 あるときは
 蔦がびっしりと蔓延る
 廃墟のアパートを発見する
 その角を曲がると
 いきなり目に飛び込む鮮やかな色色
 誰が置いたのか
 真新しいトーテムポール

 あるときは県境への道を上る
 峠のお地蔵さまの祠には
 一冊のノート
 誰もが自由に書き込める
 行きずりの日記
 見知らぬ人の想いを
 少しだけ のぞき見する

 引き返して坂を下ると
 とある家の植木鉢に
 変わった形の白い花
 家の人が 鷺草だと教えてくれた
 なるほど今にも飛び立ちそうな
 いや それはもう 飛んでいるんだ

歩くことだけが目的だった影法師にとって
毎日は 小さな冒険になっていく


風が吹いてきた
風は時たま 誰かの消息を伝えにくる

影法師は
昔 大きな曲がり角を曲がったと
だから足をひきながら
故郷のこの町を
歩き回っているんだと

曲がり角を曲がった先に
何があったのか わたしは知らない

影法師は今日も歩いている
いつまでこの町を歩き続けるんだろう

曲がろうと
まっすぐ行こうと
きみの行く道には
うつくしいものがたくさんある
おもしろいものもたくさんある
きみ以外の誰かも
必死に生きている

歩いて
歩いて
毎日 がむしゃらに
歩いていれば
いつか飛び立てるかもしれない
小さな植木鉢の中から

 ✽✽✽

影法師は
今はこの町を歩いていない
年に一度のお祭りの日にだけ現れて
そのときは うろうろ きょろきょろ
そこいらを歩いている

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