慣性の法則 荒木章太郎
感性の法則で
心は止まったままだった
くるくる回る風車
しまいそびれた鯉のぼり
潮風にやられたコンクリート
閑静な海岸線で
ほんとは波打つ感情を
押さえ込んでいたんだ
理詰めの声に押されていたんだ
傷んだ心は波打ち際にそっと置いた
日当たりの良い場所で
黒い傘をさした君が
僕の前に現れた
どこからか切り取られてきたのか
憂鬱な服をまとっていた
どうしても重くないと
身につけている気がしないと
行き場のない怒りは
その場所から決して離れようとしないことで
報復していた
現実で傷つき
物語で癒される
さまざまな役割を
願ったり
叶ったり
担ったり
降ろしたり
この世界は
空想と現実でできている
僕達は空想と現実の狭間
白と黒の葛藤の狭間にある
吊り革のような思想に
しがみついていて
身動きができない
狭間に吹く風に吹かれて
二人はようやく選択するのだ
君は傘を閉じて
僕は汚れて傷んだ服を洗う
底の方ではなく
そこそこのところで
そこかしこしこではなく
そこはかとない距離で