恋 紫陽花
下着をこちらに見えるように干すな
マンションの部屋の隣のおじいさんが声をかけてきたらしい
彼はずっと独身で女の人と
付き合ったこともないって
そう言ってた
恋したことないのかな
この頃は、暑くてしんどいと日がな1日テレビの前で右に転がり左に転がりしてるみちこちゃんが薄笑いを浮かべて隣人の事を呟いてる
衣食住足りて みちこちゃんは、恋多き人だ
3回結婚して、3回最愛の人は他界している
70歳になったけど まだまだ恋に貪欲だ
先月から、デイサービスのお迎えの担当が男性に変わった
彼は送り迎えの車への道中ずっとみちこちゃんの手を繋いでくれるそうだ
もちろんみちこちゃんのご機嫌もいい
ただ、みちこちゃんは言う
彼は私と手を繋いでいても心の中はきっと奥さんの事考えてるのよ
奥さんがいるかどうか聞いた事もないくせに
外は茹だるような暑さ
流しのゴミ置きに2匹の蝿が
くっついては離れ仲良く飛んでいる
みちこちゃんは、この蠅達恋してるの なんてまた無邪気に笑う
恋の成就を見届けていない彼女は
恋を探し続ける
真の恋の道は茨の道ってどこかで読んだことを思い出しながら、私とみちこちゃんはエアコンの効いた部屋で、一緒に素麺を食べてる
ああ、衣食住足りてこれ以上恋を手に入れたいなんて
罪深き恋も薬味に加わって
今日の素麺はどこかソーダのようなシュワシュワした味がする