交差点 紫陽花
市内から山に向かって
車を走らせる
やがて峠が見えてくる
峠を越えると道の駅があり
そこを通り過ぎて右に曲がると
小さな寺がある
今は赤い芍薬の花が出迎えてくれる
私のルーツはこちらの寺だ
祖父がお寺の子だったから
小さい頃は父によく連れられて来た
そんな記憶がある
ただその記憶は高校生で途切れる
父にとって出来損ないだった私が
寺への同行を求められなくなったからだ
あれから30年
父の一回忌を迎えた
かつて父の車で行った道を
今日は自分の車で走る
我が家から山に向かって
峠を越えて少し経つと
緑に囲まれた静かな寺に着く
住職は当時から代替わりして
私と同い年の親族になっている
住職は私の空白の期間について
何も聞かない 私も何も言わない
ここは交差点です
お父さんとまたここで会える場所です
住職が優しく話を始めた
これからお父さんはあの世から
私は家からこの交差点を目指し
何がどうあったとて血縁は続き
これからも繋がっていくのだろう