詩情を挟む 荒木章太郎
分厚い精神分析の書籍に
私情を挟んだ
しをりを失くした
俺は父性を探し求めていたが
幼少期は父の顔をよく間違えていた
たまに目の前に現れる父は
いつも未来から訪れる俺の姿だ
心の井戸を掘り進めるのはやめることにする
真っ暗で母の香りにしか辿り着けないから
全ての井戸は海へと繋がることを知ったから
人生のページを捲るうちに
言葉のナイフは鋭くなり
解釈が上手くなった
頭を切る仕事ではないのに
愛することができず
花ばかり切り落としてしまう
暗いソファの上で分析に明け暮れていたから
しおりは出て行ったのだ
地上に上がり海辺のカフェに入った
久しぶりに分厚い四季報を捲った
色彩の眩しさでテーブルが現実に染まる
痛みは解釈では切り取れない
抱きしめて受け入れるしかないのか
分厚い精神分析の書籍に
詩情を挟んだ
前の席に座っている
しをりをみつけた