ウォーキング 秋乃 夕陽
散歩から帰ってきた母と入れ替わりに
私も外へ出た
6時を過ぎたばかりの夕方の空は
まだ明るい
スロープ状の坂を下って
土手へ降りると
むうっした草独特の臭いが
マスク越しでも鼻についた
手入れもされず伸び切った雑草が
風で揺れている
思わずマスクの上から鼻を手で押さえ
土手沿いの白い道を早足で歩く
川は少し陰り気味の陽射しを浴びて
白く襞を帯びながら輝いていた
川に沿って土手に設置された
コンクリートのベンチの側では
若い男性が手足を動かして
何やら屈伸運動でもしているようだった
少し過ぎると
小型の可愛らしい犬を連れたご婦人とすれ違う
犬は飼い主にリードで制されているためか
吠えもせずに大人しく付き従っていた
桜の木が何本も聳え立つ草むらで
外国人の男性が訝しげに
私の顔をジロリと睨みつけてきたが
私は構わず脇を通り過ぎ
とうとう橋の下を二箇所潜り抜け
北大路橋の袂までやってきた
もうかなり日も落ちてきていたが
橋へと繋ぐ階段を登り
そのまま橋を渡る
明るく賑やかな光に彩られた
北大路通りへとは向かわずに
自宅の方角へと向かうため
黒く繁った土手に降りると
暗くなりはじめの景色は
行きの頃とは一変し
流石に不気味さを醸し出していた
歩いていても
ゴミを一纏めに入れたビニール袋が
闇に蹲る白い獣のようなものに見えたり
暗闇のベンチの上でお互いの体をノリのように
くっつけ合っていちゃついている
若いカップルのけたたましい嬌声が
背筋を凍らせるほど悍ましい
怪物の声に聞こえたりする
こういう時なぜかほっとするのは
ランニング姿で元気に通り過ぎる
初老の女性だったり
俯き加減で冷たい椅子に腰掛け
携帯を触る男性だったりする
人なのか物なのかそれとも物怪なのか
判別しにくい暗がりで
ただ人が少しでもそこにいることの安心感
私は歩くペースを早め
できるだけ暗くなり切る前に
家に着きたい一心で歩く
我が家へと続く橋へと辿り着いた時の達成感
しかし家路に着いた途端
腰に巻いたカーディガンを落としてしまったことに気づき
また来た道を戻り探す羽目となる
地面に落ちてないか俯きながら探し回った結果
紺のカーディガンは自宅近くの橋を降りてすぐの
土手のところに
暗い地面に溶け込ますかのように
本体をべったりつけて待っていた
私は家に帰ってすぐさまカーディガンを
洗濯カゴに放り込み
温かい湯船へと飛び込んで
気持ちよく汗を流した