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スレッドNo.3974

進化  雪柳(S. Matsumoto)

まなうらに閃く光は
春先 最初に見た燕
行く先を見定め
遠く海を越えてきたもの
はるか昔 進化の道を分かたれた人は
地に縛られ 時に道を見失っては 
まよい子のように彷徨い歩く
街角のざわめきが
ふと 波の響きのように聞こえてくるのは
さらなる昔 太古の海に棲んでいた
魚だった記憶の名残りからなのだろうか

口すぎのために働く 慌ただしい一日の終わりに
疲れ切り ようやく眠りにつく時
ここは違う、となぜか思う
別のどこかに
安息の場所があるのだと感じる
足りないものは 自ずと満たされ
日々生じる煩いも 不安や恐れも消え失せる、
そのような 知るはずのない楽土の在り処を
どうにか思い出そうとしている
これは多分 神様のはかりごと
鳥になれず 魚に戻ることもできない 人は
天に描かれた見えない座標の 
どの位置にいるのだろう

夏が過ぎると
燕は 新たに産まれたものたちを連れ南へ帰る
自分の在り方、在るべき場所を 
いつも迷いなく知っている 変わることのない姿
鳥も 魚も そのままでいいのだ

通りですれ違った 下校中の小学生たちが
ふいに無邪気に挨拶をしてくる
「こんにちは」「こんにちは」
とっさにこんにちは、と返す間に
子供らはもう 人混みにまぎれてしまっている
行き交う見知らぬ人々も
職場でせわしく働く知り合いたちも
顔を認めている暇もなく 視界を通り過ぎてゆく

時間とは
無限に短く区切ることができるものだという
けれども例えば 
無限の彼方へ遠ざかる一瞬のような時間を
そこにある風景を
記憶に留めおくことは 人には到底できそうにない
それとも 普段は気付かない意識の底の深みが
秘かに 大切に憶えているだろうか
夜ごと心で探し求める場所は
そんな認知の先の領域に 立ち現れるのかもしれない
おそらく人がみな 誕生の時から憧れ 
いつか辿り着くよういざなわれる世界
(足らざるもの満たされ──)

本当は 分かり始めていることがある
私自身が足りていないのだ・・・
道端に咲いた 名も知らない花が
風に揺れてうなづく
神様は きっとほくそ笑んでいる

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