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スレッドNo.3996

十五歳  人と庸

進路説明会が終わり本館を出ると
向かいの校舎の前には 大勢の生徒がたむろしている
たくさんの笑いさざめく声が
まばゆい騒音となって
ピロティをいっぱいに満たしている

お互いの姿をみつけると
連れ立って帰っていく親子もある
息子は部活動があると思っていたので
姿を探さずに その場所をあとにする

正門から出て フェンスに沿ってしばらく歩く
くすんだ緑色の金網フェンスは
ところどころ穴があいている

突然おとずれる既視感 
思えば 三十年前にも見たものが
ここにはたくさんあったのだ

木の葉で陰る渡り廊下
昇降口のすのこのガコガコという音
青空を閉じ込めた窓ガラス
どことなく砂でざらざらしているような
廊下や教室の床
ざらざらのやすりを押し当てられているような
十五歳の表情


しゃべらない きみ
ごはんを作る わたし
半分 電灯の消えた部屋で

しずかだ
しずかな ユーチューブの音声
しずかな 炊事の作業音

息子とぶつかると
自分がその歳だったころのことを必死に思い出そうとする

何をさせられるのが嫌で
何を自分のやるべきこととしていたか

何に苛立ちを感じ
何を待っていたか

何に失望し
何に早すぎる見切りをつけたか

誰と 何を 話したかったか

 ざらざらのやすりで
 ざらざらの何かを磨こうとすると
 ざらざらどうしが噛み合わず
 つっかかる
 ざりざりと
 たがいを拒む音がする

 それでも磨いて
 「さあ きれいになったでしょ」
 (なんとかなるもんだよ)
 「つるつるになったでしょ」
 (結果がよければ全てよし)

 若い者はおぼえている
 磨かれている まさにその瞬間の
 何かがこわれるような
 いたみ
 羞恥

暗い部屋でごはんを作っていると
このしずけさが ずっと続くのではないかと思う

ならば覚悟を決めないと
きみの第一義の 再確認を


母の日に
友だちと自転車で遠出した息子が
ばつが悪そうにくれた
チョコレートのお菓子
それに
十五歳たちの 小さな旅の土産話

いずれ ほんとうの旅に出るだろう
その前にきみの第一義を返さなければ

この世に生まれ出た瞬間からそうだった
「誰々の息子」という名前じゃない
きみは ひとりの意志ある人間だ

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