十五歳 人と庸
進路説明会が終わり本館を出ると
向かいの校舎の前には 大勢の生徒がたむろしている
たくさんの笑いさざめく声が
まばゆい騒音となって
ピロティをいっぱいに満たしている
お互いの姿をみつけると
連れ立って帰っていく親子もある
息子は部活動があると思っていたので
姿を探さずに その場所をあとにする
正門から出て フェンスに沿ってしばらく歩く
くすんだ緑色の金網フェンスは
ところどころ穴があいている
突然おとずれる既視感
思えば 三十年前にも見たものが
ここにはたくさんあったのだ
木の葉で陰る渡り廊下
昇降口のすのこのガコガコという音
青空を閉じ込めた窓ガラス
どことなく砂でざらざらしているような
廊下や教室の床
ざらざらのやすりを押し当てられているような
十五歳の表情
しゃべらない きみ
ごはんを作る わたし
半分 電灯の消えた部屋で
しずかだ
しずかな ユーチューブの音声
しずかな 炊事の作業音
息子とぶつかると
自分がその歳だったころのことを必死に思い出そうとする
何をさせられるのが嫌で
何を自分のやるべきこととしていたか
何に苛立ちを感じ
何を待っていたか
何に失望し
何に早すぎる見切りをつけたか
誰と 何を 話したかったか
ざらざらのやすりで
ざらざらの何かを磨こうとすると
ざらざらどうしが噛み合わず
つっかかる
ざりざりと
たがいを拒む音がする
それでも磨いて
「さあ きれいになったでしょ」
(なんとかなるもんだよ)
「つるつるになったでしょ」
(結果がよければ全てよし)
若い者はおぼえている
磨かれている まさにその瞬間の
何かがこわれるような
いたみ
羞恥
暗い部屋でごはんを作っていると
このしずけさが ずっと続くのではないかと思う
ならば覚悟を決めないと
きみの第一義の 再確認を
母の日に
友だちと自転車で遠出した息子が
ばつが悪そうにくれた
チョコレートのお菓子
それに
十五歳たちの 小さな旅の土産話
いずれ ほんとうの旅に出るだろう
その前にきみの第一義を返さなければ
この世に生まれ出た瞬間からそうだった
「誰々の息子」という名前じゃない
きみは ひとりの意志ある人間だ