つかの間の雑居 温泉郷
暴風と大雨が
深夜から明け方まで続き
翌日は快晴
歩道もほとんど乾きあがったが
その真ん中に
小さな水たまりが残った
そこには
ユリノキの枯れた大きな葉
ケヤキとナワシログミの小さな葉
カレーパンの袋
デパートの小さい紙袋が
吹き寄せられ
半ば浮き半ば沈んで
とどめられている
ユリノキは長く続く大通りの
街路樹のどれかから来たはずだ
葉の面積が広いので
いったん落ちてしまうと
脱出が難しかったようだ
ケヤキとナワシログミは
公園から飛ばされて来たのだろう
1キロ以上は飛んできた
仲間の葉と一緒に飛んできて
入射角度深く水に突っ込んだ葉だけが
沈んで取り残されたのだろう
カレーパンの袋は
食べ歩きの若者に無造作に捨てられて
あちこち飛ばされ 転がされ
風が弱まったところで
この水たまりに落ち着いたのだろうか
紙袋は有名店のもので
何かの高級品が入っていたらしい
ゴミ箱が倒れて散乱して
吹き上げられて飛んできたのか
初夏の陽を浴びて
徐々に乾いていく水たまりの中の
つかの間の
気まずく 落ち着かない雑居
偶然と必然の暫定的均衡点
どうせここは最後の場所ではない
乾いて風に吹かれるか
足蹴にされて転がされていくか
拾われてゴミ箱に捨てられるか
でも まあ
それまでは このままだ
次の偶然と必然まで
半ば沈み半ば浮きながら
水たまりの中で
つかの間の雑居を
みんな 静かに受け入れている