傍観者のうた 荒木章太郎
パブロフ博士の時代から
流行った行進曲の背中を
巡回バスは規則正しく
労働者を乗せて走る
この街で叩き込まれた
オペレーションと
この体に叩き込まれた
旧態依然の体質を
毎日この血に循環させて
条件反射で生きてきた
時代の風向きが変わったというのに
自由の顔をした支配者の前で
思考も行動も更新できない
情報化したブルドーザーが
知性を薙ぎ倒してゆく
海や山や森を下敷きにして
建設された超高層ビル
記号化された天の川に架ける
巨大な橋のプロジェクト
名もなき欲望は抑圧され
大地に詰め込む人柱
圧縮させて爆発させて
移り変わってゆく景色を
頬杖ついて車窓から眺めていた
自然と無意識が
無意識と肉体が
肉体と人工が
自然と意識が
意識と肉体が
自然と人工とが
交わる錯覚を味わっていた
(こんな事業に加担していたのか)
罪を薄めてでも生き延びるため
あくまでも正当化する俺の肉体
深緑に寝かしつけておいた反骨を覚えているか
この仕事を辞める前に掘り起こしてみるか