緑の聖地 人と庸
建物ばかりのまちの中に
緑がこんもりと繁っている一角がある
そういうところは
神聖な場所であったりする
ひさしぶりにここへきた
前にきたときよりも
緑のにおいが濃くなっている
最後にきたときは
まだ透きとおるような若葉色だった
ここの楓や楠たちは
今日はことさらにしずかだ
以前は仕事に行くまえに必ずここに立ち寄った
職場の人たちの視線
いや 視線は向けられていない
向けられていないのに
つき刺さる
わたしの目は半分の大きさになった
まぶたでいろんなものを隠すから
心の水面(みなも)を鎮めるために
神さまに手を合わせ
緑に向かって深呼吸をし
ここで禅語の本を読んだ
(神さまは許してくださるだろう)
今はそれらをしていない
自分の中の形のないものを
だれにでも認識できる形にする
そんな試みをはじめたから
水面がふるえて 波立って
何かがポチャリとこぼれると
白い平原に ことばという花がひらく
そんな気がするから
わたしがここにくるのは
今はもっぱら家族のためだ
今日はむすこの修学旅行の安全を
(「困ったときの〜」もたいがいにせよとおっしゃっているだろうか)
お詣りを終えたとき
木々のどこかで 鳥がないた
「鳥啼(な)いて山更(さら)に幽(しずか)なり」✽
わたしの中の水面がふるえた
✽禅の言葉
(六世紀前半の詩人•王籍の五言古詩の一節「蝉噪林逾静(せみさわいではやしいよいよしずか) 鳥啼山更幽」より)