命の温もり 上田一眞
早朝 新聞受けのそばに
見知らぬ少女がひとり 蹲っていた
おはよう
どうしたの?
少女の小さな掌を覗き込むと
雀が一羽
手の中で ぐったりしている
身体に触れるとまだ温かい
羽毛が生え揃ったばかりの幼鳥
風に煽られ
巣から落ちたか
はたまた 鴉どもにやられたか
雀が チチっと啼いて眼を瞑る
やがて
体内時計が針を止め
深い死の帷に包まれた
鳥の身体を指で囲っていた少女は
悲しげに私を見上げる
せつないね
埋めてあげような
そう声をかけると
彼女はコクりとうなずいた
*
冷たくなりゆく骸
命の残香を感じ
孤独な小鳥のしぐさでうなずく
少女
死を感得し
雀の黄泉路への旅立ちを悟る
命の温もりが消えたとき
少女の胸に
憐憫の火が熾り
その儚さを悲しむこころが芽生えた
清らかなこころから湧き出す
温かい涙が瞼を濡らす
少女の魂に転生する
雀の霊(たましい)
私は 一条の光を見て
少女の肩にそっと手を置いた