夏の日に ゆき
ジュワッと音のしそうな夕焼けを背に
彼は前を歩いていた
湿ったタオルで首筋の汗を拭きながら
少し丸くなった背中と
重い足取りの影が
もう若くはないんだと寂しく感じる
一杯やるか の言葉に
頷いて付いていく
今日もいつものように
最初のビールが一番美味いと言うだろう
二杯目からは少し余裕が出てきて
今日も暑かったな と笑顔になる
ビールを焼酎に変えて
何度も乾杯をして
心地良く酔いがまわった頃
俺 会社を辞める事にした
今月いっぱいでな
焼酎の入ったグラスを撫でながら
真っ直ぐに僕の目を見て
お前なら大丈夫
やっていける
俺の分まで頑張れ
彼は苦笑いして
ごめんな と言った
それが彼との最後になった
あの夕方の重い影
あれは病人の影だった
身体中が悲鳴をあげてゆっくりと
魂と分離していく恐怖と
彼は闘っていたのだろう
何も知らなかった僕は
何も出来なかった事を
悔やんでいる
もっと一緒に呑みたかった
彼の話をもっと聞きたかった
大切な事は後で思い知らされる
焼けそうな夕焼けの下に
彼はもういない