洗車 理蝶
晴れた日曜は
たいていのことは許してしまえる
まだ残っている
しずかな疼きも 軽くなるような
洗車をしよう 久しぶりに
土埃をまとった 僕の愛車
僕が 避けて 洗い落として
ないものとした たくさんの汚れ
車は逃げずに受け止めた
鋼鉄の体をくすませても
くさらずエンジンを燃やし続けた
あの星を見るのも あの街へ行くのも
君がいなければ きっと叶わなかったろうな
せめてもの礼さ 丁寧に洗うよ
滑らかな背のカーブへ
この空を移してやるように ひたすら磨く
だんだんあらわれてくる 二つ目の快晴
飢えた宝石のように
欲張りに光をあつめながら
車は再び走りだす
映った国道の並木が
車体のカーブに沿って
リアへ吸い込まれる
がらんどうの助手席が
あの人の重みをまだ覚えていて
そっと手なんか置いてみたりするけど
また僕はきっと恋をする
愛の縁にもう一度触れたいと願う
夏は もう始まっている
日々揮発する青い悩みが
空を深く染めてゆく
とりあえず 海まで飛ばそう
向こうみずなことにも
いっそ巻き込まれてしまいたい渚
そして今
かなしいほどに光っている
黒い車とスピード