白い紙 温泉郷
白紙のファックスがまた届いた
届くときには
だいたい朝のこの時間
ファックスが届くと
取りに行くのはアルバイトの仕事だ
ああ また
あのじいさんか
ほっとけ ほっとけ
そこのファイルに綴じておけばいい
彼は白紙のファックスを手に取って
少し見つめて
いつものように
ファイルに綴じる
ファイルにそっとつぶやく
ここじゃないよ
ここじゃない
老人からの苦情の電話に
職員が決まり切った対応を繰り返しているうちに
電話がこなくなり
ファックスが届くようになった
ファイルに綴じるだけは綴じる
でも そのまま何もしない
そうするようになって
もうかなり経つ
着信拒否まではしない
電話がくると面倒だから
彼はいつものように
ファイルをめくってみる
最初のうちは
乱暴な文字が殴り書きされていた
右斜め上がりの文字が
叩きつけるように書かれていた
だんだん勢いがなくなり
言葉が減り
そして白紙に……
白紙のファックスは
孤独に覆われ
紙の色がだんだん弱く
透き通っていく
白い紙
白い顔
祖父を思い出す
怒ってばかりで
嫌いだった祖父を
最後の方は
何も言わなくなった祖父を
彼は 祈らずにはいられない
もっと暖かいもので覆われるといいのに
もっと優しいもので覆われるといいのに
暖かいもので覆われた優しい色の手紙を
ここではなく
誰かに届けてくれるといいのに
わずかでもいいから
優しい言葉を添えて