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スレッドNo.4095

ヴィランの言い分  静間安夫

ヴィランの言い分
―「われわれの同志、人民委員会議議長 V.L.は昨21日、脳出血により…」

ようやく来たのだ
この日が
待ちに待っていたこの日が
あの男が死んだ今
もはや俺の行く手を阻む者はない

それにしても命拾いをしたものだ
あの男が密かに
病床で認めた遺書が
もし公になっていたら
今度ばかりは俺も
ただでは済まなかったろう

遺書を託した相手を拉致して
収容所送りにし
遺書も闇に葬った以上は
そのメッセージが
誰かに届くことはもはやない
それもこれも
俺が手塩にかけて育て上げた
諜報網と工作員のおかげだ!

そもそも
俺がこうした汚れ仕事に
手を染めるきっかけを作ったのは誰だ?
あの男ではないか!

スパイ活動だけではない―
党の命令に従わない農民を弾圧し
穀物を掠奪して飢餓に追い込み
返す刀で
われわれを批判する政敵を粛清し
はたまた密告を奨励して
民衆を恐怖で支配する体制を作らせたのは
あの男だ!

なるほど
「何もお前にここまでやれ、
 と言った覚えはない」
ああいうエリートは
そう言って自己弁護をするに違いない―
確かにあの男は
「治安を維持し
 食料を確保せよ!」
とだけしか言わなかったかもしれない

だが
革命後の大混乱の中で
外国の侵略を受けながら
治安を維持し
食料を確保しようとするなら
他に一体全体、どんなやり方があったというのか?

もう一度言うが
おれはあの男の命令を忠実に実行しただけだ

…にもかかわらず
遺書の中で俺を貶め
他のエリートたちに忠告するとは―
「あの粗暴な男を警戒せよ」だと⁈
「革命の行き過ぎを抑え
 漸進的な改革へ舵をとれ」だと⁉︎
「革命の理想も愛国心もない野心家に
 権力を握らせてはならない」
ずいぶんな言われ方をしたものだ

だったら こちらも言わせてもらおう

たしかに俺は
ろくな教育も受けたことのない たたきあげさ
「理想」だの「愛国心」だの目に見えないものは
いっさい信じないリアリストさ

だが それだからこそ
革命以来 今日まで
そして これから先も
党と国家が生き残るために必要なことが何か?
手に取るようにわかる―
何よりもまず反対派を摘発し、粛清し
権力の集中を図ること、それに尽きる!

まさにその目的を全うするために
警察国家を構築し機能させてきたのは
他でもない―この俺だ!
その俺が全権を掌握して何が悪い?
「野心家」と言われようが構うものか
覚悟がすべてだ!

それにひきかえ
しょせん あのエリートたちには
悪名、誹謗、中傷を物ともせず
冷徹に果断に事をなす度量などない
それでもなお 彼らの中から
俺に反対し、行く手を遮るものが現れたら
そのときは容赦しない
狡猾で残忍な秘密警察に命じて
陰謀を巡らし
無実の罪で陥れてやる!

そのとき
革命裁判所が下す判決は
「流刑地での強制労働30年」
罪状はもちろん
「国家への反逆、並びに陰謀罪」だ!(了)


*タイトルと詩行の間に一行挿入したので、それぞれの位置関係を明確にするために、
 再度タイトルを入力致しました。

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