きぼうがはいっています 人と庸
「きぼうがはいっています
おすきなものをえらんでください」
そうか きぼうがはいっているのか
店先にたくさん並んだ
色も形もさまざまのグラス
ひとつを手にとって見ると
湧き立った無数の空気の球が
空を目指してどんどんと昇っていき
今にも弾けんとするまでの軌跡が
見事にガラスの中に閉じ込められている
そうか これがきぼうか
海底の宝物のように
グラスの底の部分にひとつだけあるきぼう
グラスの表面に
大きいものと小さいものが規則正しく並んだきぼう
ガラスの内部で激しい渦が起こっているのか
球体がつぶれて楕円体になったきぼう
きぼうはこんなにたくさんあった
時の渦のそこここに
少しずつ落として 忘れて 手放して
思わぬ場所まで来てしまったけれど
きぼうはここにもあった
グラスの底から光を透かしてみると
水中から空を見上げているみたいだ
ではこの 空に昇っていくきぼうのひとつひとつは
生命の息づかいか
過去のどこかで見たきぼうを一瞬思い出したけれど
すぐにまた忘れてしまった
かならずしも必要でないのかもしれない けれど
「きぼうがはいっています
おすきなものをえらんでください」
きぼうをひとつ
えらぶ