割れなかったガラス瓶 喜太郎
一軒の骨董品屋の中
辛いことや
何となく気が滅入った時は
ここに来る
少し埃を被った骨董品たちが
時の流れを忘れさせてくれる
そんなある日 一つのガラス瓶に目を惹きつけられた
厚さは不均一で気泡も入ってる
それでも淡い色の光が網膜に優しく沁み込んでくる
店主が奥から声をかけてきた
『大正の頃のガラス瓶だよ
手作りでね 何となく良いだろう?』
『じゃあ この気泡の中には
その頃の空気が入っているのかな?』
『ああ 何より今君の手の中にあるまで
割れることなく存在してきた』
僕は思わず呟いた
『割れることなく今ここにある……』
割れてしまえはガラス屑として捨てられていたかもしれない
今こうして巡り会えた一つの奇跡
店主が続けて話した
『恋人はいるのかい?
いるとしたら その人とは幾多の出会いと別れをくり返して
割れることなく君と出会えた
そして今は二人で愛を育んでるんだろ?
人もモノも出会いとは不思議な縁なものさ』
僕は割れなかったガラス瓶を買った
それに飾る君の好きなトケイソウを買いに花屋へ向かった