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スレッドNo.4109

十歳の夏  上田一眞

石は透明な水の下
波静かな渚で洗われている

僕は石をそっと取り上げ
そして 放った
渚は揺れ 静寂は破れた

 屈折する 光
 翻える 魚
 逃げる 鳥

一瞬
何かが始まる予兆を感じた

*
 
その日
突然 浜へ呼び出され
学友たちから
理由も告げられずに
〈村八分〉を宣告された

何がいけないのか皆目分からないまま
誰も口をきいてくれなくなり
孤立の暗闇に転落

 どうして
 どうして
 どうして
 ・・・・

・・・そうだ
さしたる理由などありはしない
口重く 孤立癖のある僕の性向を見越して
彼らは
〈人身御供〉をつくりたかったのだ

海と山々に囲繞された
陸の孤島であるこの地を覆う 悪弊
老いも若きも
自己と異なるにおいを発するものを極端に嫌う
独善的で
夜郎自大の〈排除〉の論理

*

僕は登校するのをやめ
代わりに
毎日のように浜に出て石を割った
〈村八分〉に加担した彼らの頭数ほどだ

渚にひとり佇んでいると
鴉どもが近くの墓地から浜辺に集まり
ギャアギャアと騒ぐ
黒い点がやがて面となり
浜を埋め尽くす

身のまわりに蝟集する黒い影に怯え
足もとがふらつき 僕は
汀(みぎわ)に崩れ落ちた 

 ああ 海
 ああ 砂
 ああ 石

口に侵入して来る潮水がやたらと
苦い

*

もはやこの浜も
かつて
朝鮮人の ようちゃんと
遊び 
堤防下で うぐしと触れあった **1
わらべのこころを育む温かい場所ではない

太陽が照りつける原色の海を前に
鴉の鳴き声に耳を塞ぎ
声もないまま
ただ渚の石を拾う球形の人

目の前を
藻場を離れたアマモが流れる
これから
どこを流離うのだろう

*

十歳の夏 
学友たちに疎外され
濡れた海砂のなかでもがく 日々…

僕がふる里の浜を去ったのは
それから
四年後のことだ


  

**1 うぐし 唖者のこと

編集・削除(編集済: 2024年06月22日 20:26)

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