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スレッドNo.4109

十歳の夏  上田一眞

石は透明な水の下
波静かな渚で洗われている

僕は石をそっと取り上げ
そして 放った
渚は揺れ 静寂は破れた

 屈折する 光
 翻える 魚
 逃げる 鳥

一瞬
何かが始まる予兆を感じた


 
その日
突然 浜へ呼び出され
学友たちから
理由も告げられずに
〈村八分〉を宣告された

何がいけないのか皆目分からないまま
誰も口をきいてくれなくなり
孤立の暗闇に転落

 どうして
 どうして
 どうして
 ・・・・

・・・そうだ
さしたる理由などありはしない
口重く 孤立癖のある僕の性向を見越して
彼らは
〈人身御供〉をつくりたかったのだ

海と山々に囲繞された
陸の孤島であるこの地を覆う 悪弊
老いも若きも
自己と異なるにおいを発するものを極端に嫌う
独善的で
夜郎自大の〈排除〉の論理



僕は登校するのをやめ
代わりに
毎日のように浜に出て石を割った
〈村八分〉に加担した彼らの頭数ほどだ

渚にひとり佇んでいると
鴉どもが近くの墓地から浜辺に集まり
ギャアギャアと騒ぐ
黒い点がやがて面となり
浜を埋め尽くす

身のまわりに蝟集する黒い影に怯え
足もとがふらつき 僕は
汀(みぎわ)に崩れ落ちた 

 ああ 海
 ああ 砂
 ああ 石

口に侵入して来る潮水がやたらと
苦い



もはやこの浜も
かつて
朝鮮人の ようちゃんと
遊び 
堤防下で うぐしと触れあった **1
わらべのこころを育む温かい場所ではない

太陽が照りつける原色の海を前に
鴉の鳴き声に耳を塞ぎ
声もないまま
ただ渚の石を拾う球形の人

目の前を
藻場を離れたアマモが流れる
これから
どこを流離うのだろう



十歳の夏 
学友たちに疎外され
濡れた海砂のなかでもがく 日々…

僕がふる里の浜を去ったのは
それから
四年後のことだ


  

**1 うぐし 唖者のこと

編集・削除(編集済: 2024年06月22日 20:26)

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