やむにやまれぬ音だ 荒木章太郎
雨がやむ音を
聞いたことがあるか
からっとした青空が顔を出し
能天気な希望にかき消される
かすれ声のようだ
人が病む音を
聞いたことがあるか
どんよりと曇天に覆われるのなら
鳥肌のような不安に
かき消される
やむにやまれぬ音だ
手を差し伸べるなら
諦めの溜め息の音だ
その瞬間に生まれる余白に
俺は言葉を添える
言葉は音となる
音は連なりリズム打つ日常
生活を再生する
まずはゆっくりとした
ワルツから始まり
食器棚に置かれた
固く青いトマトが
顔を赤らめる夕暮れ
深い蒼穹の空添えられて
夏が訪れる音だ