最期のダジャレ akko
「だいぶ組織 採られちゃったよ」
病院から帰った夫は疲れた様子だった
一週間後に家族で聞いた病理の結果は余命1~3年
その二日後に異なる医師が、夫の体を蝕んでいるのは
「NEC」という名の希少ガン
たちが悪くて 進行が速くて もって数か月と・・
深夜のダイニングテーブルに積み上げられた関連書籍
夫を数か月かそこらで死なせるわけにはいかない
パソコンを開けてネットを検索しまくり
標準治療?自由診療?
免疫療法・重粒子線・温熱療法・遺伝子治療・ビタミンC・・
ああ、こんなにある、治療法がいっぱい、ああ、ああ、希望はあるのだ
治療費?・・なんとかなる なんとかする・・
みかんの花のむせぶような香気が夜の庭に満ちていた
そこへトイレに下りてきた夫
夜を徹して戦っている私に「・・・大変だねえ!」
確かな足取りで寝室へ戻る夫に「眠れているの?」
「眠れているよー」と死刑宣告された者ののどかな声
・・・私の願いは叶わず
着々と夫の命は削られていった
淡い幻想の無能な私
体が難儀になっても悲嘆の声も苦悩のしわも見せなかった夫よ
懸命に最期を看取っていた私たちを和ませてくれた夫よ
薬のアレジオンのCMをみて発した最期のダジャレ
「アレジオン あれじゃ 駄目だ!」
そう言ったきりバタッと眠り込んで起きなくなってしまった