赤い鬼火
「赤い鬼火」 蒼井百合亜
月のない雨上がりの夜
湿った空気が
仄暗い裏路地に纏いつく
雨に滲んだ古い記憶が
うらめしさを忘れて
わたしを手招く
血の滲む瘡蓋を
無理やり隠してきた
一枚一枚
折り畳んだ想いが
夜に解れて浮遊する
気づけば
ほつほつと
紅い鬼火が燃えて
ぼんやり
悲しい音を立てている
路地裏の片隅
あれは
赤い鬼火は
わたしだろうか
こんな夜には
忘れようにも忘れられない
埋もれていた感情が
鎖を解いて
赤い鬼火となり
暗闇を彷徨う
「もう来ないで」
やがて朝が来て
空が白む頃
わたしはまた
素知らぬ顔で
何も無かったように
いつもの時間へと帰ってゆく
燃え残る残り火にも
気付かないままに
月のない雨上がり
夜には
赤い鬼火がやってくる
いつまでも消えない
心の染みを燃やしながら