ぼくが死んだ朝 理蝶
ぼくが死んだ朝には
かるく雨が降って
燕がせわしく餌を探すだろう
ぼくが死んだ朝には
誰かが傘をわすれて
整えた髪を崩してしまうだろう
ぼくが死んだ朝には
太陽のぜんまいが巻かれて
空へただしく昇ってゆくだろう
何も変わらないさ それでいいんだ
宇宙に産まれたすべては
かけがえのない軌道と輪廻を与えられて
この世に産まれ落ち
気づかぬ内に淡々と その上を生きてゆく
みんな辿っているんだ
神様のチョークで描かれたその線を
みんな巡っているんだ
神様のコンパスで描かれたその円を
ぼくが死んでも
何も変わらないよ
困ることなんて何にもないよ
それでいいんだ
でもね
代用品だらけの このぼくを
労わってくれる 優しい人が
もしいるのなら
ねえ 少し泣いてくれないか
ねえ 空を見上げてくれないか
ぼくがいないという
ただそれだけの理由で
時にさみしく
時にむなしくなりながら
それぞれの線を
ひたむきに辿った日々に免じて
どうか
この世界を少しも変えることのない
ひそやかな涙を 流してくれないか
せめて
次の代わりが来るまでの一瞬を
うつむき加減に 暮らしてくれないか
ぼくが死んだ朝には
かるく雨が降って
雛は旺盛に食べるだろう
ぼくが死んだ朝には
うすい雲を割って
陽が差し込んでくるだろう
ぼくが死んだ朝には
目を腫らした人が居て
そこに生きた証を見るだろう
ぼくは はにかんで
空の階段へ足をかけるだろう