蚕 静間安夫
神様は
きみにしか与えなかった―
類まれな才能を…
それが そもそもの不運の始まり
美しい糸を
果てしなく紡ぎ出すよう
数千年にもわたって
人間に手を加えられ
強いられたがゆえに
とうとう きみは
閉じ込められてしまった―
自分の棲家の中に
いつの間にか
繭が厚くなり過ぎて
羽化しても
自力で食い破ることが
できないのだ
たとえ人の手で
繭の外に出られても
すでに羽は退化して
はばたくことができない
人間たちが
きみの棲家から
美しい糸を好き放題に
手に入れているというのに…
きみは自然の中を
飛び回ることはおろか
外の世界を垣間見ることすら
許されない
そうなのだ―
きみは
現世での喜びの全てを
犠牲にしてまで
絹糸を紡ぎ続けている
女性の装いを彩り
美しさをより一層引き立てて
永遠に忘れ難いものとするために
もしや その姿は
どこか詩人に似ていないか?
なぜなら
神様に愛でられた
詩人の才能も
惜しみなく費やされる―
紡いだ言葉で
女性の美しさを
永遠にとどめるために
しかし
彼らもまた
その愛が報われること少なく
この世での幸は
決して大きくはないのだから…