嬢 喜太郎
空が薄紫に染まる頃
化粧を済ませた私は
ネオンに群がる蛾に生まれ変わる
青空を舞う蝶に憧れた時もあったわ
だけど今じゃ信じられるモノは金と薬だけ
お金じゃ『愛』は買えないと誰かが言うわ
だけど限りなく『愛』に近いモノは買えるのよ
薬は私から………私の心と頭から
辛さも苦しみも切なさも
虚に変えて忘れさせてくれるの
カサついた肌にクリームを塗り込むように
傷だらけの心にかりそめを纏わせるだけの夜
今夜は何人の男たちが
ひとときの肌の温もりをくれるのかしら?
それを考えるだけで吐き気がするわ
電車を降りる前
いつもの薬をミネラルウォーターで流し込む
醜い蛾にはお似合いなネオン街が
改札の向こう側に広がっている
薬が効く頃には吐き気も治まるわ