立志 理蝶
立ち上がる
初夏の風が吹く最中
立ち上がる
ぐらつく歯を噛んで
立ち上がる
袖をせわしくはためかせて
立ち上がる
白い腕を日に焼いて
立ち上がって みたものの
みえをきって みたものの
空には まひるの月がぽつねんと
だれもみてはいないのさ
丘だけはしっている
ふたつの足が
かすかに震えていること
力感たくましく 走ってゆくんだ
いのちは まだ満足していないぞ
土を散らして 汗を垂らして
立ち上ってくる 草のちぎれた匂い
まひるの月から 光のしずくが落ちて
花が次々とよみがえる
色が行く手を跳ね回る
なんだか目にしみて
涙まであふれてくるんだ
あれ どうしよう
うらぶれた
ことばとルーチンが
らんらんと光り出して
すこし笑っちゃうくらい
どんな光も壊してしまわないように
この手は 広く やさしく
この手には まだ何も握られていないから
この世界のどこよりもすずしい!
風をはらんで 走ってゆくんだ
いのちは まだ満足していないぞ
丘だけはしっている
花束を持った男が
彼の後をそっとつけていったこと