お役所 秋乃 夕陽
ちょんぎられた支援の端
暑苦しく嫌な顔をして高齢男性に説明を繰り返す
区役所の障害者支援係の職員
隣の子育て支援の係はというと
誰も客がいなくて暇そうに
楽しくおしゃべりしている
女性のアルバイト職員ばかり
イライラとくしゃくしゃと
あとは白白とぬくぬくと
湿気て澱んで
個人情報は舞い狂う
書類の上
笑う笑う
怒る怒る
「マイナンバーカードはお持ちですか」
出すのが当たり前だろうと言わんばかりに
何度も耳元で投げかけられた言葉に
老人はうまく飲み込めず首を傾げる
「ま、マイ、なんだって?
うーん、無いかなあ。わかんないなあ」
惚けたような応えに突き放すことばを投げかけつつ
何度も何度も説明を繰り返す
「なければ保険証再発行ですね!」
職員の怒りの沸点も頂点に達しつつある時
ようやく老人も何とかなく
相手の意図することを飲み込めたようだ
パイプ椅子に丸く曲がった背中を
より丸く丸めながら
職員の言葉に首振り人形のように
従順にうなづいている
「それではこれで手続きは終了ですので、
通知が来るまでしばらくお待ちください!」
バンバン机を叩きながら書類に必要事項を記入させ
履き捨てるように老人を送り出す
そんなやりとりに
自分達は関わり合いになりたく無いからなのか
それとも初めから
自分達には何の関わり合いもないことだと
決め込んでいるからなのか
後ろに控える職員は終始徹底して
顔を上げることなく机に向かい
誰もが仲間の横暴な態度にも
何も聞いていないフリを貫き通していた
男性職員は一旦は窓口から離れて
乱暴に書類棚に書類を突っ込むと
またイヤイヤながら持ち場を陣取った
「番号札十二番の方、どうぞ」
怒りの矛先はすでに次の客に向けられていた