羽蟻 秋乃 夕陽
和室から見える景色は
まさに夏そのものを現している
水色に薄められた絵の具に
白を淡く馴染むように付け足した
そんな背景
伸びる焦茶の自由な線に
緑は白く光り
ときおり吹く生暖かな息に
気持ちよさそうに体を揺らす
開け放した窓の網戸の端に
一匹の羽蟻がウロウロと彷徨い歩き
まるで木々と木々との間を渡りながら
空中浮遊しているようだ
どこからともなくじっとりと
浮き出る汗を拭いながら
私も以前羽蟻のように
行きつけではない銀行へ
たまたま行く途中で道に迷い
畑と住宅地の広がるアスファルトの道を
行ったり来たりしたことを
思い出して苦笑した
人通りもやけに少なく
民家とビニールハウスとが交互に入り組み
歩くたび蒸されたような食物の匂いと
土の香りとが鼻についた
喉の渇きを覚え
あまりにも歩き疲れて
自暴自棄になりながらも
やっと辿り着いた安堵感
(今目の前で彷徨いている羽蟻も
目的地に着くだろうか)
そんなことを考えながら
もう一度網戸のほうへ目を向けると
羽蟻の姿はいつの間にか消えていた