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スレッドNo.4207

あかね雲  人と庸

彼女の名前は由子
まわりの人はそう思っているし
そう呼んでいる

彼女の子どもたちでさえも
お母さんの名前は と聞かれたらそう答える

でも 病院でもらう薬の袋や
古い友人からの年賀状には
ちがう名前が記してある

彼女のほんとうの名前は あかね

あかねちゃんが結婚するとき
結婚相手のお母さんは彼女の名前を変えた
いいこともわるいことも 名前が左右すると思っていた

あかねちゃんは 由子さんになった

あかねちゃんは名前が変わったことを
あまり気にしていないように見えた

 「あかね」はあかねちゃんのお父さんが
 好きな詩人の好きな詩から拾い出してつけた

 そのことを思い出すと見えるのは
 夕焼け空よりももっと鮮やかなあかね雲

気にしていないように見えたけれど
コウキコウレイも間近なあかねちゃんは
何かの署名運動に応じるときや
ラインに登録する名前に
「あかね」を使うようになった


あかねちゃんは
時代とも 世間とも 人とも
足並みそろえて生きてきた

そして 娘たちにもそれを示した
意地とも言えるまでに自分の意志を通すよりも
時代に合わせ 世間に合わせ 人に合わせ
昔からの日本の風習に合わせて選択すれば
燃えるようなあかね色ではなく
穏やかな色の雲が心にただようだろうと

でも
いつのまにか時代は
わたしたちの頭上を越えてはるか先まで行ってしまった

風に吹かれるように一緒に進んでいける人
逆風にあおられながら必死にしがみつく人

あかねちゃんと娘のひとりは
たくさんの女性とともにそれを見送った

時代が思ったよりも見えないところまで行ってしまったこと
あかねちゃんはあまり気にしていないように見えた

ただ
子どもたちの心に暗雲たちこめると
あかねちゃんはとんでいく
「お母さんはお助けマンやからね」
そのとき見えるのは
時代も理屈も燃やすような
昔から変わらないあかね雲

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