生と死 相野零次
生きるも死 ぬも同じこと
ふたつは繋がっている
炎と水のように
眠りと目覚めのように
決して相容れないが
相対している
今 僕は死 ぬことを想起している
実行に移すことはない
けれど死を思うことは
生を誘うことに他ならない
死よ 僕にとって魅惑的な事柄
生に満足していないから
死を思うことで生から遠ざかりたいのだ
そうして人は自 殺未遂などする
僕もそう
胸に手を押し当てて
心臓を握りつぶしてみる
できっこないのだ
できっこないが
それはいわば儀式的なことで
効果はある
頭を抱えて髪をかきむしる
死んでしまえと祈りながら
死への儀式は
生への執着の深さを量るものなのだ
それは例えば歌でもかまわない
大きな声を出す
日常とはかけはなれている
それもひとつの儀式だ
辛いものを食べる
辛いというのは痛みの一種だ
そして汗をかく
汗は流れる
血のようだと思えば
いい
それも儀式である
死に憧れ
生に絶望する
生に憧れ
死に絶望する
同じことなのだ
今日も僕は死を繰り返す
闇の儀式を行い
悪魔に魂を売る
生を行うために
生を全うするために
神に捧げる
血と汗を振り絞る
人間であることに満足するために
偽りの生で
死を堪能する