はためき 理蝶
ある朝 おきて
僕が布団をはためかせると
のんきな羽毛が舞い上がって
本棚の裏へと消えていった
この部屋に
わずかなわずかな風が吹いていることを知った
ある朝 おきて
僕が海をはためかせると
南の島はまるごと濡れてしまって
ねむらない魚群は朝日に
ぴちぴちと光った
南洋のサーファーたちは
たいそう喜んでくれたようだった
ある朝 おきて
僕が空をはためかせると
青い稲妻のような静脈が透ける
白い太ももが見え隠れした
神様はドレスの裾をさわられて
くすぐったそうにしていた
ある朝 おきて
僕が君をはためかせると
君の下から とつぜんに
コルク栓の小瓶があらわれた
僕はなぜだか
瓶の中に入っているのは
すぐに涙だとわかった
僕は小瓶をのみほした
つめたいハッカが抜けていった
君はまだ起きそうになかった
柔らかくふれる
おそれと いつくしみを指先にこめて
すると世界は はためいて
覆われている向こう側を
時折 のぞかせてくれるだろう